青鉛筆とタールであなたが書いた物語
世界は今も開演中の喜劇
役者はひとりとして出てこない
そしてその日は木曜日
悲劇と落胆を演じ続ける
誰かがすみれ色の薄い便箋に書いた
あなた宛の手紙
あなたの思い出を全部数えあげて
彼女が言葉に託したソネット
そしてその木曜日も
人間の方法で悲劇と落胆を演じ続ける
あなたは夜がやってくるといつも
鏡と実存を信じなければならなかった
摸造真珠が手のひらからこぼれ落ち
あなたは涙を流す
その距離に物質に
もしくは喉につかえているなにかのために
電話をするのが嫌いだったのでした かけるのも受けるのも
同じ音楽を繰り返すステレオにヘッドフォンを差して逃げていたのです
今ではじきにゴミになってしまうであろう、
この壊れた埃まみれのステレオは古いおもちゃのピアノを鳴らしています
うんともすんとも言わないもう片方のスピーカーのことをお構いなしに
それはいつかあなたからの電話を待てるように鍛えてくれたのでした
1,2,3…と、数え上げた呼び出し音とまばたきには
君には計算が間に合う見込みがないって
教えられたものでした
ついさっき言葉を切らしてしまって
いいや、口から落ちてしまったに違いない
もしくはあの象の長い鼻から落としたのかもしれません
そしてわたしは口をつぐむのです、じれったくなりながらも
だれひとりわたしが会話に戻るのなんて待ってなんかいないのに
あなたの電話をよく待っていたものでした
夜が「今日はこのへんにしよう」と言うまで
何も標してくれない星たちに手を振り続けながらね
わたしは固唾をのんで、沈黙を守り
あなたからの電話を辛抱強く待っているのです
小さな錠剤がくるくる回るか試す
すりへらすためのブーツを履いて
温かいものを飲んで身体に染み込ませる
見えない100の目(じっと見つめ続ける)
レインコートを着たレトリバー(わたしのことなんて考えない)
一時間前の敵
湿度のはなし
彼のコートのクロスステッチ
スピードを上げたの?
どこで彼女とすれ違ったの?
だらだらして(わたしが台無しにして)いた2年間
時間は災難
あなたはわたしのことをまだ見つけてさえいないのに
彼女の眼を覚えてるの?
その道の権威から引用して
狂気とともに引用符を閉じる
もう一度さまよう(あなたが道を教えてくれなくちゃ)
彼らのだれも悔しがってなんかいなかった
2つの曲線は硬直している
何かが合成されないと、わたしは息をし続けられない
「君の眼はとても暗い色だね」
地下道の鼻をつくにおい
窓際の席 トンネルのライトがひとつ (またひとつ)
5時間半前わたしのいない世界のことを考えていた
まだ水をやってない観葉植物のある心地よい部屋で
あなたもいつも言っていたみたいな
渇きを覚えたことがあるのかしら
完璧からほど遠いわたしにたいして
わたしの肺から立ち上ってくる痛みを取り除くために
その謎があなたの心を取り巻く 潮に行き詰まる海のように
わたしが波を立てるたび、わたしたちは防波堤をまた作り直す
あなたの海でいれるのは幸せなこと
だってあなたはわたしの海なのだから
もしわたしが恋に落ちていなかったとしても
きっとあなたの隣で目覚めたいと思うのでしょう
あなたの傷ついた心は訊いている
なんで一緒じゃないの、いつも望んでいたことじゃないのと
わたしは何も言えなくて、それをあなたは無視だといって
あなたの小さな恋人は途方に暮れている
一緒にフリーライドをしましょう
ペテルブルグ上空を高く
あなたは夢見がちではないけれど
少なくとも嘘つきじゃないから
あとですぐに飛べるはず
潮の満干を永遠に追いかけましょう
去年の夏のことは忘れて
失うものも恐れることもないのよ
惨めな気持ちはすべて地上に置いてきたの
そしてリンゴの木のところを二回筆でなでる
これはまだ書きかけの絵画
影も青も描いていないの
もしよければ、あなたのロマンスも描きいれましょう
すこし心が痛むけれど
海に投げ捨ててしまえばいいだけのことだから
もしも酔いがさめるまで
このことを思い出せなくても
日々は光の速さで飛んでいくの
月にぶらさがりながら
9月に雪を降らせましょう
過ぎた夏のことはもう忘れて
誰も泣いたりなんかしない
あなたにはココアを作ってあげるから
夢たちにもあなたの小鳥のように帰る籠があるの
飛んで帰っていくのを見てごらん
かれらの仮の住処が濃い霧の向こうに隠れてしまったときには
自由になりたくて、滴を残していくものもいる
葉っぱのように、羽のように、はらはら落ちてくるの
あなたは永遠から逃げなくちゃいけない
力を使い果たしてしまってわたしには解決策がないの
いつかの歌が雲の切れ間からやまびこみたいに聴こえてきて口ずさんだの
それは光だと思ったけれど、誰かのいたずらなのかもしれない
わたしが宇宙飛行士くらいうんと孤独だったらよかったのに
そんなふりをして、天の川に願いをかける
銀河への一歩
現実に触れる指一本
ひとつの言葉は、あなたとわたしだけの秘密
世界はあなたが羽を広げたり、足を投げ出して休むには狭すぎるのね
わたしは小鳥のように自由だから
みんながただの冗談のためにれんがの隙間で悪さをしてるだけなのも知っているの
永遠を探す、物語の続き
わたしたちは力果てて、解決策がないの
愛しい人、あなたがいなくて寂しい
おかしいでしょう、ラジオで聴いた話が、わたしを夏の海へ連れてくるなんて
びっしょり汗をかいて寝過ごしていたの
一晩じゅう泣くのには失敗したみたい
この重いからだを引きずって
うまく日々を過ごしていくのは煩わしくて
わたしたちの小さな心は
飛んでゆけないベクトルたちのせいで膿んでいる
一つ目の天井がわたしのまぶたをじっと見ている
月の海へと注ぐ涙に溶けていく
愛しい人よ、いつかあなたを連れて行こう
思い出すたび悪夢や眠れない夜でくたびれてしまう記憶を
全部売り払ってしまえるところへ
もう子守唄欲しさに泣いたりはしないけれど
まだ夜明けは見つからなくて
ただ一晩じゅう旅の準備をするの
結局わたしは壊れやしなかった
だってすでにめちゃくちゃだったから
いつだって暇つぶしは永遠のように続く
街灯にぶら下がって揺れている間
でもわたしは空虚に直面して何も感じないの
血管の中ではわかっている
あなたと共有できるかもしれないもうひとつの答えを
勘が間違っていたらよくないから
もっとわたしのことを試してみたほうがいい
でもあなたは優しいから、ぶったりしない
ちょっとたたいてみたり、意地悪を言ったりはするけれど
すべてがそれなりに美しい
愛という魔法の下では
だけど、わたしは何も感じない
あなたは守ってくれるしなでてくれるのに
でもあなたは優しいから、ぶったりなんかしない
あなたはあの頃のあなたじゃないみたいで
わたしは自分でいることにうんざり
でもいつかわたしはあなたがそうしたみたいに
あの虹の向こうへ飛んでいくの
地上の樹に寄りかかって
地中の虫たちを動かしている
あの虹の向こうへと漕ぎ出す時のために
どっちも泳いで渡れるようにならなくちゃ
昨日夢であなたに会ったの
それからは今までのように歌えなくなった
あなたは虹をひっくり返しちゃったみたい
わたしたちはうんと高いところへ来てしまった
たくさんの人が嘆いている
問いを投げかけたまま置いてきたあなたのことを
彼らも消え去っていく存在なのに
辛い日々のことを消していって
あなたのために記憶をとっておくよ
そうすれば心の中に太陽を感じられるから
夢うつつにありもしない色のことが
頭の中の椅子と雨との間のところをよぎった
それは雨のにおいと水玉模様を足したみたいな色だと思った
それは虹色になってそこにとどまり
わたしはすっかり目が冴えてしまった
羊を数えていて
灯りを消すのが遅すぎたの
受取人になるはずの人はアフリカの夕焼けを眺めていた
取れてしまったシャツの4番目のボタンのところを弄りながら
返事もなければ、切手すら貼っていない手紙がある
封筒の中のわたしの悲しみが、空気に混じって漂う
わたしの心は痛いほどに そのことでいっぱい
思い出でいっぱい
涙を数えていて
灯りを消すのが遅すぎたの
一晩じゅうお話の海の中で溺れている
藁にしっかり、時に力なくつかまって、わたしは帰ってこれるのかしら